日本のエディトリアルデザインにおいて多大な影響力を持つアートディレクター藤本やすしさん。彼が袖口から見せてくれた腕時計は、15年くらい前に購入したというシルバーのアンティークもの。藤本さんはシンプルな文字板のところを指差して、「ここの質実剛健な感じが気に入ってて」と静かに話し始めた。「服装に合わせて、文字板が黒のものやバンドがトリコロールのものを着けることがあるんだけど、何となく、この時計に戻ってきてしまうんだよね」
藤本さんがこの時計を選んだ理由は、自分の生まれた年代と同じ1950年頃の時代のものだったから。以前から、その年代に生産された時計を手に入れたいと思っていて、この1本に出会ったという。「もう金具が取れたりもしているから、買い替えようかとも思うんだけど。なんだか気がつくと、いつもこの時計をしているな」と藤本さんは笑う。同じ時間を刻んできた者同士、「気が合う」ということなのかもしれない。「時計の趣味って、人が出るよね。僕は大きくてきらびやかな時計は、あんまり好きじゃない。削いで削いで、デザインされていったようなものがいい。ファッションもブリティッシュトラッドがベースにあるから、つける腕時計は華美にならないように気をつけているよ」
洗練されたシンプルなデザインをまとう藤本さん。それはどこか自身が手がけるデザインとも似ている気がする。
GINZA、VOGUEなど、数々のファッション誌を手がけてきたCAP。現在もエディトリアルデザインの最前線で活躍する藤本さんに師事しようと、若手デザイナーが次々とその門を叩く。
藤本やすし
平凡社編集部を経て、デザイン事務所「CAP」を設立。携わった雑誌は100誌以上。他に、表参道ヒルズの広告制作やROCKET BOOKSの出版なども。
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